ちいさくて、時間がかかって、すごい物語【日記】 | フーテンひぐらし

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永遠の放課後。文化祭前夜のテンションで生きたい。なかなか大人になれない。

月曜日。
ビーモン新宿スタジオでBecky AD(なぜ今まで受けてこなかったんだろう…と後悔するほどよかった)を受けたあとコワーキングスペースでお仕事する。
隣の男性が、心の声をぜんぶ声に出す人であった。最初「誰かとオンラインmtgしてるのかな?」と思ったらそうではなかった。オンラインでお話してる時は大変に腰が低い様子だが、独り言は「ったく何だよ!」「あーちくしょう」とかなので、隣にいるとちょっとびっくりする。公共の施設や交通機関でも、静かめな空間でことさらデカい咳払いや独り言を発する人って何なのだろう(宇宙と交信していて絶え間なく独りで話している人のことではない。そういう人はあんまり怖くはない)。コワーキングスペースにも結構いる。おそらく無意識だろうけど、周囲の人々の顔ぶれを見て発しているようなふしもある。「俺は確かにここにいるからな」という必死の主張にも、ある種の示威行為にも見える。

 



コワーキングスペースの大きな窓の向こうには映画館があって、いまかかっている作品のポスターが並んでいる。そこに「HIDARI」のポスターを見つけた。調べてみたらあと1時間ほどで始まるので観ることにした。
左甚五郎は落語にもたびたび登場する伝説の名工。彫ったものがたちまち命を得て動き出す、という噺が多い。その左甚五郎をモチーフにした、木彫りストップモーション時代劇が「HIDARI」だ。といっても今はパイロット版(5分)しかない。左甚五郎が最強の木彫り刺客になっててものすごいかっこいい。たった5分だけど細部までゴリゴリにこだわっていてしびれてしまう。

 

 

これが映画館のスクリーンで大音響で観れるというので、行きたいなーと思っていたらちょうど目の前の映画館でやってた!ラッキー。
「HIDARI」は5分しかないので、同じ製作チーム(「ドワーフ」「TECARAT」)が作るストップモーションアニメ「こまねこ はじめのいっぽ」「劇場版 ごん - GON, THE LITTLE FOX -」との3本立てだそうだ。3本合わせても39分という上映時間なので観に行きやすかった。

「こまねこ」は導入としてとってもよかった。こまねこ自身が人形を使ってストップモーションアニメを作る、という短いおはなし。大変にかわいい。

そのあとが「劇場版ごん」。原作が「ごんぎつね」なのは知っていた。物語自体はもちろん読んだことあるし、あの有名なセリフ「ごん、お前だったのか」とかなしい結末は覚えてる。でもそこに至るまでのストーリーはすっかり失念してたので、かなりまっさらで真正面から食らってしまった。結果、嗚咽をこらえるのに苦労するほど泣いた。
こちらも木彫りの人形がなんともいえず味わい深くて、何より擬人化したごんがいたいけであまりにかわいい。だから、ごんが色々がんばる時点ですでに滂沱である。原作にはない新しい解釈も入れ込んでいて、ひとりぼっちのいたずらっ子ごんにはかなしい過去がある。里山でいろいろな思いを抱えながら暮らす兵十とごん。秋の空気や花の匂いまで漂ってきそうな作品で、本当に素晴らしかった。これは…これは円盤化してほしい。ずっと手元に置いておきたい。

こうして涙でぐじゃぐじゃになり呆然としているうちに颯爽と「HIDARI」が始まってしまったので、全然気持ちが切り替えられない。うわー目の前でめっちゃかっこいいこと始まってる…でも感情がまだごんのかなしみにとらわれたままなんですけどーーー!とアワアワしてるうちに終わってしまった。これ、順番を「こまねこ」「HIDARI」「劇場版ごん」にしませんかね…?
でも3作ともすごく好きだった。ドワーフさんTECARATさん始め、製作者のみなさんに限りないリスペクトと拍手を。ストップモーションアニメってすごいよねほんとに。

新宿と梅田で1週間限定の上映だったのか、好評で5/4まで上映延長だそうなので、お時間あるひとはぜひ観てほしいです。39分しかないので、ちょっとした空き時間にも行けるよ。ハンカチは必携です。

 



超大作ももちろん楽しいけど、とても小さくて、でも丹念に時間をかけてつくられた物語は人の心をぐわんぐわん揺さぶる。比べようもないけれど、そういうものを私も作りたいなと思う。