さいきん読んだ本。 | フーテンひぐらし

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永遠の放課後。文化祭前夜のテンションで生きたい。なかなか大人になれない。


広野ゆうなのフーテンひぐらし-ふぁんとむぴーくす


★北林一光 「ファントム・ピークス」


ジャンルでいえばパニック小説になるのか。
淡々とした筆致、久々にゾクッと怖くて、涼めた。


私は、赤川次郎が描く「マジで怖い話」が好きで、
なかでも「夜」という作品がそれはそれは怖いのだが、
その題材によく似ている。


「リング」もめたくた怖かったけど、
それよりも「黒い家」がゾゾゾーッとしたのは
「現実にいつ起こっても不思議がない事件」だから。


「ファントム・ピークス」にもそのリアリティがある。
作者の方はこの作品で受賞し作家デビューした後、
病気で亡くなってしまったそうで、他の作品が読めないのが残念。




広野ゆうなのフーテンひぐらし-絶対貧困


★石井光太 「絶対貧困」 --世界リアル貧困学講義


自分の中の生ぬるいヒューマニズムの横っ面を張り倒され、
かつ、かかと落としをくらったような。


著者は実際に世界各地のスラムの中に入り、
路上生活者たちに溶け込んで同じ生活をした経験を講義形式でレポしている。
だから遠いところからの客観レポートと違って生々しく、リアルで、
ところどころ可笑しく、そしてシャレにならない。


梁石日「闇の子供たち」を読んでショックを受けて
「こんな可哀相な子たちが溢れ放置されてるなんて、
世界はいったい何をやってるんだー!」
と思ったが
そんな人が12億人いるとなってはもはや、
「屋根のある家に住み三食くえて職があって衣服がある」我々の方が
むしろ特殊な環境なのではと愕然とする。


救うにはあまりに膨大すぎ、根が深すぎ、
そして「悲惨」も毎日続けば「淡々とした日常」となる現実。
かわいそう…と思うのは大きな間違いでは、とも思える。


人はどんなこと(想像を絶することでも)をしても絶対に生きようとするのだ。
そして、その中でもルールがあり人情があり恋と出産と笑いがある不思議。


人類の営みのサイクルに普通に組み込まれてる絶対貧困は、
すざましいがとてつもなく強くたくましく底抜けなのだ。


この著者の他のルポも、ぜひ読んでみたい。




広野ゆうなのフーテンひぐらし-ほんとうの話


★高橋源一郎・内田樹編 「嘘みたいな本当の話」

[日本版]ナショナル・ストーリー・プロジェクト


ありがちなタイトルだなーと思ったのだけど、
編者のすごさと表紙のトーンが気になって立ち読みし、止まらなくなったので購入。


よくある「爆笑話や恐怖話を集めました!」のノリとは違うの。


ナショナル・ストーリー・プロジェクトというのは、
フツーの人たちに投稿してもらった実話を
人気作家ポール・オースターがラジオで朗読するというアメリカの企画。
それの日本版をつくろう!と、編者ふたりが呼びかけてできた本。


編者の力ゆえか、募集していたWeb文芸誌のトーンゆえか
おもしろがらせよう、泣かせよう、怖がらせよう、という語り口が皆無で
とにかくすべてがむちゃくちゃ淡々としている。そして短い。


それゆえに、おかしみや、せつなさや、こわさが増幅。


ずっと読んでいると、何だか上質な短編小説か
詩を読んでいるような気分になってくる。


大好きな、ルナール「博物誌」を読んでる感覚ととても似てる!


「普通の毎日を生きている人たちがいちばん偉い、

 普通のおじちゃんおばちゃんの人生がいちばんドラマチック」


とは、病気と手術で落ち込んだ時に悟ったわたしの価値観だが、

それをより強く認識した良書だと思う。


一気読みでもよし、毎日ちょっとずつ読むもよし、
普通の人の普通の人生に起こったドラマをじわじわ味わいたい。


巻頭で編者が語る「アメリカ版と日本版の大きな違い」もかなり興味深い考察です。




ファ

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