定食屋の男女 | フーテンひぐらし

フーテンひぐらし

永遠の放課後。文化祭前夜のテンションで生きたい。なかなか大人になれない。

定食屋。隣席がとても近い。そこには推定30代後半男子と20代後半男子。年かさの方が自分のスマホのカメラロールを延々と若い方に見せ続け、時折ポツポツと言う。「ほらこれ、○○さん(某YouTuber)も来てた」「ポルシェは6台買った」「この時計は1000万で買ったけど、今は3000万くらいするんじゃないかな」「でも俺、時計あんま興味ないんだよね」どれもこれも大したことないよ、と言いたげな抑揚のない物言い。
見せられてる若い方はことさらに「へえーーー!」「すごいっすね」「こういうの買えちゃうんですねえ」「うん、時計ってやっぱアップルウォッチが最強ですよね」と一生懸命感心してみせ、相槌を打っている。


年かさの方が何らかのビジネスでたくさんの金を得ていて、若い方が今まさに取り込まれようとしてるんだなと想像できる。でも年かさの方にはネットワークビジネス勧誘にありがちな「一緒に頑張っていこうぜ(キラッ)」という熱がなく、目の前の相手に興味も愛情もなさそうなので、これはカモか手下にしようとしてるんだな…給付金詐欺のセミナーかオレオレ詐欺の受け子か…とか妄想がふくらんじゃってもう目の前のさば塩定食どころじゃない。

「これから俺の打ち合わせには全部一緒に来ていいから」「はいっ!秘書的な、って感じですよね!」「ああ」

やめとけよ、人の話をよく聞き、相手を心地よくさせる相槌がうてる真面目そうな青年よ。定食屋さんでリッチ自慢をしてるこのシチュエーション自体、妙だと思わないのか。君は普通に月給をもらって働く方が向いてるよ。むかし私の友達はなあ…とか言いたくなるけど赤の他人だから言えない。

「すごい!そのバッグいいっすね」「あ?これバーキン。なかなかない型なんだよ」「へええーー」自慢と称賛ラリーのしっぽを店内に引きずりながら彼らは帰ってった。


※写真はイメージです

後日、またその定食屋で私は同じ席に座った。隣席には推定アラサー女子2人。休日の夕方、2人は早くも乾杯を始めていて、なんかそれはそれは楽しそうだ。
「見てこれなんだけど」「なになに…うっわーこれかあ」「そー」「2枚目の写真の方がよくない?」「そーなの、これトップにしろよって感じ」どうやら最近マッチングアプリで出会った男たちの総ざらえをしている。
いまマッチングアプリで出会い続けてるのは片方の子だけだが、彼女はそのほぼすべてをもう片方の子に報告・共有してるようで色々話が早い。「あれまじウケたよ、あの…」「○○?(あだ名)」「それっ!○○のLINE!時々思い出してウケてるもん」「あの状況からよくあんなこと言えたよねー」爆笑につぐ爆笑で、お酒もすすむ。彼らの登録画面、出会った時の様子、その後のLINEでのやりとり。すべては女友達に共有され、酒の肴になる。

 

よーく分かる。仲のいい女友達とは、男のネタは喜怒哀楽すべての場合においても赤裸々にあけすけに共有され、俎上に乗るのだ。(男同士もそうかもしれないが、報連相の細かさは女には敵わないと思う)

同じ店、同じ席での2人組。たまたまに過ぎないけれど、男はパワーを得ようと必死にもがき、女は知らず知らずのうちにパワーをたくわえ共有し、あたりに撒いているなーと思った。主語でかくてごめん。