マーヴェリックに「老兵のあり方」を学ぶ。 | フーテンひぐらし

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永遠の放課後。文化祭前夜のテンションで生きたい。なかなか大人になれない。

 

「トップガン マーヴェリック」観てきた。

私は主にTwitterにおける「信頼する映画好きの方々」の反応をめちゃくちゃ重視してる。「トップガン マーヴェリック(以下TGM)」に関してはその方々はもちろん、皆が手放しで絶賛してるのでいつもなら「マジかーー!」と即テンションが上がるとこだ。でもいまいち乗り切れなかったのは、予習として何十年ぶりかに観た86年の「トップガン(以下無印TG)」のせいであった。

80年代ハリウッド映画独特のキラキラ感は好きではあるけど、美しい教官と恋に落ちること以外ぜんぶ忘れてたので「あれ…こんな映画だったっけ??」と戸惑った。あまりにお気楽イェイイェイウォウウォウ過ぎて「おいおいマジかー」を連発しちゃったよ。男の夢とロマンの詰め合わせ。おトムはひたすら眩しいしヴァル・キルマー演じるアイスマンも素敵だけどさ、ミグをがんがん撃ち落としてめでたしとかアリなの?って。あとケリー・マクギリス演じるチャーリー、タフな女の記憶があったのに「こんなご都合よい女だったっけか」とびっくりした。教官として、いいんかあれで。
初見でこのノリにポカーンとしてる夫に「でもラストシーンがいいんだよ」と言ったけど思ってたのと全然違った。「主人公がヒロインを迎えにいくとこは!?」と混乱したのち、「愛と青春の旅だち」と間違えてることに気づいたのであった。

というわけで続篇がいったいどうなるんだろうと思いながら観にいってみた。

 




最高であった。
(あっさり)


ストーリー、役者、音と画、素晴らしかった。
初回はIMAXだったので数日後ソッコーMX4Dで2回目を楽しんだ。


(下記、決定的なネタバレはないけど内容に抵触するので未見の方は注意)

まずグッときたのは、無印TGにおいて「能力は高いが自信過剰で独善的で暴走しがちな青年」であったマーヴェリックが何十年も経ったいまどういう立ち位置の男になっているかをけっこうリアルに描いたところだ。

50代になったマーヴェリックは相変わらず魅力的で衰え知らずのキラキラチャームが炸裂してるけど、自信過剰、ルール無視の暴走(予想以上の結果を出すけど)も変わっていなかった。そしてそれは現代の海軍組織の中では完全に「組織の持て余し者」なのだった…。
べらぼうに能力高いから勲章たんまりもらってるけど協調性ないし管理職もむりなので組織に組み込めない。結果、テストパイロットはやってるけど組織としては「こういうタイプそのうち要らなくなるし早く辞めりゃいいのに…」くらいに思ってる。
この始まりが個人的にはとてもよくて、同時に身につまされた。

マーヴェリックと引き比べるなんてあまりにおこがましいしスケールも能力レベルも全っ然違うんだけど、私自身も十数年勤めた企業の中で似たような立ち位置だったから。
私のアウトプットは経営陣から信頼を得てはいたけど、創業時ばりばりベンチャーだった会社は大所帯となり、きちんとした組織になってゆく。でも私は管理職になることをこばみ続けたので、後輩たちに都度都度のアドバイスはできても「上司として部下を導き管理する」ことは全然できない。仕事で時折ホームランかっ飛ばしてもルールは守らないし協調性ないし、でも給料は一定水準以上だしで、会社が成熟し私の年齢が上がるにつれ「とにかく扱いづらく持て余す存在」になった。なので辞めることになった。自分が悪いので誰にも思うとこはないし、むしろ申し訳なかったと思ってる。

なので勝手にマーヴェリックに感情移入したのでした。

今回は「まさかあのレジェンドが俺たちを教えてくれるなんてー!!!(興奮&狂喜)」という導入だと思ってたので、新世代トップガンズがマーヴェリックのことを知らず特に歓迎もしておらず、ただのおっさんくらいにしか思ってないのもリアルでよかった。

過去の栄光はくすむ。
そして忘れ去られる。
「アンタ要らね」と言われる日がくる。


そこから老兵はどう生きていくのか。おとなしく去るべきなのか。他に己を活かす道はあるのか。話はそこから始まる。

ではマーヴェリックはどうしたのか。

レジェンドとして若者を指導し、過去の経験を語る…とかじゃなかった(もちろん教官なのでゼロじゃないけど)。簡単にいうと、山本五十六の名言ぽかった。「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」っていうあれですね。まああんまり好きな名言じゃないけど。

マーヴェリックの場合、最初の「やってみせ」がデカい。手本を見せるというよりは「自分がまず限界にチャレンジしてそれを超えてみせた」だった。その姿を見て仰天した教え子たちが「俺たちもやる!」「俺たちもきっとできる!」と奮起したのだ。

さらに過去の因縁を引きずってこじれている関係においても、説得したりはせず自分がまず行動で示し、相手を完全に信頼することで固く絡まった糸をほどいていった。

彼は「人生の先達として高みから後進を育てる」ようなやり方はできない。その代わり同じ現場に飛び込み、持てるものをフル稼働して限界に挑戦し、共にいる人間を守った。

リーダーとしてどうあるべきかではなく、いまの自分が持っていること、できることをそのまま必死にやる。

ああこういう方法もあるんだ、と胸が熱くなった。
「どうしたらうまく大人になりきれるんだろうな」「もう年だし、ものわかりよく引っ込んだ方がいいかな」「プレイヤーでい続けるのは無理なのかな」「教えるの下手くそだけどやはり指導者に徹するべきなのかな」なんていうモヤモヤに、ひとすじの光をもらったきもち。

いばらない。高みに立たない。過去の栄光を語らない。無理に時代に乗っかろう、最新ぶろうともしない。ただ、何歳だろうと自分が得意なこと、できることをやる。手を動かして何かをかたちにする。聞いてくる人がいたら答える。支えてくれる人や慕ってくれる人がいたら大事にする。そういうことだ。

そういうことを教えてくれてありがとうマーヴェリック。
おんぼろF14を操ってピンチを脱する彼は、「CGを使わず感動させる作品を作り、観客はそれを映画館で楽しむ」というオールドスタイルを滅ぼさないために奮闘し続けるトム・クルーズそのものだよ。


あとは無印TGの時はしょうもなかった女性キャラや恋愛の描き方もいい。
TGMにおいてチーム唯一の女性だったフェニックスは紅一点扱いでもなく、アシスタント役でもなく、かといって男より男前!とかでもなく、本当にただ皆と同じ「チームの一員」として存在していたし(腕立ても200回やっとりましたね)。
マーヴェリックとペニーの恋も主導権は常にペニー側にあり、マーヴェリックは無理に押し切ったりしない。機が熟してからの2人も分別があり抑制が効いてて、それが却って初々しさを感じさせたりしてよかった。無印TGのチャーリーみたいな「一度寝たらマーヴェリックに首ったけ♪」みたいなのじゃなくてほんとよかったよ…。

その他の登場人物たちも個性豊かでよく描けているし、久しぶりに「映画館で観る映画ってめちゃくちゃいいな!」となるのでトムや戦闘機に特に興味なくてもぜひ観にゆくといいと思います!そして鑑賞後はネットで撮影裏話や観た人の考察を掘ってゆくとさらに楽しいよ…こういう楽しさはマッドマックス怒りのデスロード以来かもしれないなー。(まあマッ怒は超えないんですけどね)


TGMにおける私の推しはハングマンです。鼻持ちならない自信家!

つまようじくわえてニヤニヤしてるのにチンピラみが一切なく爽やかなのすごい。


あとは、下記にIMAXとMX4Dの感想をのせときます。(Twitterに書いたやつを転記)

MX4Dは、シートがバイクの振動や艦上の風を伝え、戦闘機と共に空を向き揺れて楽しいけど、エグくはないため早いタイミングで慣れ、最終的にさほど存在意義を感じなかった。Gを感じるシステム欲しかった(むり)

以下、IMAXとの比較。

MX4Dのスクリーンが小さかったので「枠」を感じ、映像迫力に欠けた。この作品に関してはIMAXの「どデカスクリーンゆえ視界の全てが映像なのでVRみがある」感じと「重低音やミサイル発射音の差まではっきり分かる音響の良さ」の方が好みです。
MX4Dは問答無用で吹替版なので、吹替・字幕それぞれの良さを味わえて面白かった。訳も少しずつ違うので「僚機」は「ウイングマン」ていうんだ!とか学んだし。声優さんみんなとてもよかった。特にウォーロックの声!

個人的には
・飛び交う専門用語は音のみだと理解しづらい
・役者本人の発声の抑揚や機微は(当然)消える
・戦闘時のセリフがマスクと轟音のため聞き取りづらい
・繰り返し登場するセリフが場面ごとに微妙に違う言葉になってて少しもったいない
という理由で、字幕版の方が好みです。

冒頭のケイン少将がマーヴェリックの受勲を読み上げるとことか、「SAM(地対空ミサイル)」とか「フレア」とかは先に字幕で文字見ててよかった。音声のみだと頭に入ってこなかっただろうなーと。逆に「F18」「F14」とかはなぜか音声の方が頭に入ってきやすい不思議。

 

IMAXのスクリーンでかすぎて笑う。品川のは座席エリアの奥行きが短く、I列でも「ち、近っっ!」となったので、画面大きいの苦手なひとはご注意を。