「重版出来!」にみるお仕事。 | フーテンひぐらし

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永遠の放課後。文化祭前夜のテンションで生きたい。なかなか大人になれない。



本屋で「これ読んでみたいな」と思うマンガ(数巻)があっても、
最近はビニールの帯で封じられていて、立ち読みができない。
そういう時わたしは試しに1、2巻だけ買って帰る。
それで読んでみて面白いと思えば、続きを買いに走るのだ。

というパターンで最後に買ったのが、
はるな檸檬「ZUCCA ZUCA」(感想はこちらに)だったのだが、
久々に先日それをやったのがこのマンガ。

重版出来


松田奈緒子
「重版出来!」


この熟語、わたしずっと「じゅうはんでき」と
読んでいたんだけど、「じゅうはんしゅったい」って読むんだね。
「来」を「たい」って読むなんて珍しい。

これは午前中に2巻まで買って一気に読んでしまい、
夕方には3、4、5巻を買いに走った。

松田奈緒子さんの作品は、
「少女漫画」という短編集を持ってる。
なんかところどころ激しくデッサンが狂ってるなーって思うのと(わざとなのかな)
ちょっと展開が安直だなあと思う部分があるんだけど(すみません…)、
時々すごく魅力的で素敵なことばやシーンをつくり出す人。


これはタイトルから想像できる通り、
出版社の青年マンガ誌編集部の物語。

学生時代、柔道に打ち込みオリンピックを目指してきた主人公の女の子が
思いがけず出版社に入社し、柔道への情熱を立派な編集者になることへの
情熱に変えて奮闘するマンガ。


このあらすじだけで思い起こせるのが、土田世紀「編集王」
(感想はこちら)

これは絶版になっていたものを
わざわざオークションで競り落としたくらい、大好きな作品。

主人公はもとプロボクサーで、網膜剥離でボクサーの道を絶たれてから
幼なじみのつてをたどり、青年マンガ誌の編集部で見習いとして働き始める。


どちらにも共通しているのが、
スポーツ一直線だった素直で直情径行型の主人公。
クセモノ揃いの編集者。
人気と売上に翻弄されるマンガ誌の現状と、作家の苦悩。
そして営業、印刷所など、ふだん表に出ることのない
「本づくりと販売」に関わる人々の姿を描いていること。

(女子大生が大学を休学して編集部の企画に乗り、
マンガを描くがうまくいかず…って話はあまりに似すぎてて
アレ??って思ったけどね)


「編集王」は94年に描かれた作品なので
昭和的な常識や重たさがものすごくあり、
マンガをつくるってまさに修羅の道なんだなと思った。
でもとてつもなく熱くて泣けるマンガです。

それに比べると、「重版出来!」はとても今時だなあと思う。
「女だからダメ」という差別も(このマンガにおいては)なく、
電子書籍の話や、SNSを使ってのプロモーション作戦なども出てくるのが面白い。

土田世紀といえばもうド根性・浪花節なマンガを描く人なので、
それと比べてしまうとどうしても軽く流れているんだけど、
それでもこのマンガ、とっても面白い。

作品(マンガ)を世に出すためには、
こんなにも大勢の人たちが関わっているのだ。
マンガは、作者ひとりのものではないんだ。
チームでつくりあげ、チームで売り出していく、
その楽しさ、つらさがよく描かれている。

読んでいてときどき鼻の奥がつんとした。


このひとこと、好きです。

読者だよ


「お客さまは神様です」なんてどんな時も平身低頭するわけではないけど、
お客さんのことを「我々が頑張ってつくったものを勝手にイイねと
言ってついてくる有象無象」くらいにしか思ってない人とか
「うちのお客さん(またはファン)ってこういう人ばっかだしな」
と鼻で笑う人とかって現実にいるので、そういう人に贈りたいコマだ。

あと、圧倒的に好きなのはこのセリフね。

「売れた」んじゃない。
俺たちが-------売ったんだよ!


そう。
ほんとそう、これ!どんなお仕事でも。
「売れる商品」「売れる作品」なんて最初からない。
「売れるもん探してきてよ」とかナンセンスすぎる。
売り手や作り手が、「売るぞ!」って工夫して、
お客さんに良さを伝えて、がんばって、初めて売れるんだ。


こういう泥臭い仕事場のおはなしには、
純粋で朗らかすぎる主人公がいちばん似合うのだろう。
みんなに「コグマ」と呼ばれる黒沢心ちゃんが可愛くて、救われます。


仕事に燃えたい人や、
自分の仕事ってつまんねーなって腐ってる人、
打ち込みたい何かを模索している人、
人間関係でモヤモヤしてる人におすすめです。



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