ひとり飲みができない女 | フーテンひぐらし

フーテンひぐらし

永遠の放課後。文化祭前夜のテンションで生きたい。なかなか大人になれない。



みんなに「すごく意外ですね…!」と言われるのだけど、
わたしは「ひとり飲み」が苦手だ。



もちろん「ひとり飯」は余裕できる。
まだ未体験だが「ひとりカラオケ」も全く平気だろう。


だけど、ごはん屋ではなく飲み屋に入ってひとりで
お酒とつまみでちびちびやる、というかたちが苦手だ。



やりたいのよ。とてもやりたいのよ。
だけどいつもいつも逡巡したすえに断念するか、

エイヤとやっても挙動不審になって退散するのよ。



仕事がいち段落して、ああちょっと飲みたいなと思う夜。
時間が21時をゆうにすぎている。
夫は新しい会社に入ってから帰りが遅く、てっぺん過ぎないと帰宅しない。


こんな時間に「今から飲もう」と言ってすぐ応えてくれそうな人物は、
近所(ひと駅ふた駅範囲まで)に住んでる、
「独身」もしくは「共働きで双方帰りが遅く自由度高い子なし既婚者」


幸い近所にはそういうメンツが何人かいる。
だからわたしはひとりずつ顔を思い浮かべていく。


あの子…。
いや最近予定が詰まってるから「事前に約束してくれないと難しい」っつってたな。


やっぱいつものあいつだな!
と思って連絡とると、こういう時に限ってもう家で彼女と飯を食っている。残念。

こうなると早くも暗中模索。


じゃああの子…うーん彼女は仕事終わりが読めないからな…難しいかなー。


あの人は…サシ飲みをほとんどしたことないからちょっとドキドキするなー。


あいつは…多分仕事終わってないか、他の予定があるだろうなー。


あの子引っ越してちょっと遠くなったし、
ヤツはこないだ結婚したばっかだしな…。
あの子なら来るな…いやあの子とだと深夜までになっちゃうもっとこうサラッと…。



そう、「誘って断られる」のがさみしいのと妙な引っ込み思案を発揮するのとで、
実際声をかけるのは1人か2人だけであとは脳内で考えて誘うのをやめちゃうのだ。
そんで「偶然にも誘ってきてくれないかなー」なんて少女漫画みたいなこと考えてる。


(かといってまだあまり気心知れてない人から誘われても人見知りなので当然行かない。

つまりなじみの誰かが誘ってきてほしいという自分勝手さ)



もちろんそんな奇跡は起こらないので、
次に「行っちゃう?ひとり飲み♪」とポジティブに想起する。



だけど、とここで想像してつまずく。

ひとりで飲んでる間って、いったい何してればいいの?



私はただ黙って思考などしつつ酒とつまみを口にはこぶことはできない。
手もちぶさたすぎる。つまんない。


かといってスマホをえんえんいじりつづけてるのは好きな姿じゃない。
なんかいかにも「わたしヒマを持て余してるの」って感じじゃないか。
そうじゃない!ひとりの時間を楽しんでるだけだ!


…じゃあやっぱり本を持ち込むかな。それは楽しいな。

でもワイワイガヤガヤしてる店内だと本って集中しづらいよな…。
混んでて隣の人と近いのもな…。読書なら薄暗い店もダメだしな…。


なじみの店員さんとお話する…?
でもえんえんお話できるほどお店がこぢんまりしてないし
店員さんも忙しそうだから気をつかっちゃうなあ。



とまあここまで考えて、結局
「……ほんじゃあ家でひとり飲みすっか…」となるのがいつものオチである。


だいたい毎度毎度、このまったく同じ回路の思考と想像を辿り
1~2時間費やして、行くのはドン・キホーテの酒売り場という。
馬鹿だな。



ひとりがイヤなのではなく、
「飲んでるあいだに何すればいいか」がわからないから、
飲み屋にひとりでいけないのであるよ。


食事とは違う、あの酒とつまみの間に発生するゆるゆるした空白の時間。
あれをひとりでは埋められない、と思っちゃうから尻ごんでしまうのだ。


夫にそれを話すといつも言われる。
「えー!いいじゃん何もしなくても。俺なんてボーーっと考えごとして
 平気でひとりで2時間とか飲めるよ」


男性のほうがそういうの平気なのかな。いいなー。



わたしはもともとお酒を飲む大目的が
「お酒の味を楽しむ」じゃなくて「お酒の力を借りて誰かと楽しく喋る」なので
根幹がずるっと抜けちゃうとどうしていいかわからない。



かつて焼き鳥屋にスティーヴン・キングを持ち込んでトライしたことがあったが、
もうまったく本に集中できなくて楽しくなくて挫折した。
あれはきっと、焼き鳥とビールにキングが合わなかったのだ。




というわけで昨日。
いまやってる仕事を受けている会社の飲み会があり、
すごく楽しい時間を過ごしたのだが、早い開始だったので終わったのが21時半。
ちょっと飲み足りない。だけど人と飲むほどのパワーはない。
(というかまたも誰かを誘う勇気がないだけ)


これは…酒も入ってるしひとり飲み行くしかないのでは!?
さいわい、いまさっき買ったばかりのマンガも二冊、バッグに入ってる!


(そう、私は酒をひっかけてないとひとり飲みにトライできない。どんだけ小心だ)



で、家の最も近所にあるいきつけのビストロに向かう。
ここのカウンターは、男女問わずひとり飲みさんをよく見かけるので。

入る前に店の前を一度素通りして、中の混み具合を確認する。


…お、珍しくすいてる…。
カウンターは…いちばんはじにひとり飲みの男性がいるだけ!
(ひとり飲みの同志がいると勇気がわく)


これは入るしかない!



「あ、いらっしゃいませ♪こんばんはー!」
「今日はひ、ひとりなんです」
「わっ、初めてじゃないですか?」
「そーなの。ずっと来たかったんだけどねエヘヘ…」


美人店員さんのいつもの笑顔にちょっと安心。




広野ゆうなのフーテンひぐらし-ひとり飲み


赤ワイングラスと、大好きな豚と胡椒のリエット。


酒が入ってて思考が雑になってるのでいろいろ気にすることなく、
マンガを読んだりスマホをいじったりボケーとしたりして過ごす。
かわい子ぶってグラス注文した失敗にすぐ気づき、カラフェ(デキャンタ)を注文し直す。


むむっ、翔やんがTwitterで激押ししてたこのマンガ、
すごくいいじゃん。当たりだ、やったあ。


そうこうしてたらワインもつまみもなくなり、
気づいたらお客がわたしだけになってた。

カウンターの中の店員さんとお話をする。


おお、わたしいま結構いいひとり飲みできてんじゃねえの!?

おっとなーー! (※43さいです)


ごはん屋さんで酒も頼んで、ごはん食べたあと
えんえん本読みながら楽しむことは大好きだったけど、
今回、はじめてひとり飲みが楽しかったよ。


店内の落ち着き具合と、お店のひとの優しさによるところは大きいな。



ほんとはいつでも気の合うやつとお喋りして飲みたい。
だけどその勇気がでない日は、こうしてひとり飲みに慣れていこう。
いずれは、混み合ってうるさい店とかオヤジの聖地な飲み屋とかも
ひとりで楽しめるようになるといいなヘ(゚∀゚*)ノ