2013笑い初め2days | フーテンひぐらし

フーテンひぐらし

永遠の放課後。文化祭前夜のテンションで生きたい。なかなか大人になれない。


■1月12日(土)
鯉昇・文左衛門 長講たっぷりの会@国立演芸場

ちらし


今年の初落語。ジムでへろへろになったあとバタバタとひとり半蔵門へ。
芝居、コンサート、ありとあらゆるイベントで「こんなに女と若者男子ばかりで
壮年の男たちはいったいどこ行ったんだろう」と思っていたが、
落語に行くと毎回おもう。ああ、全員ここにいたのかと。

今回は兼好さんに次いでお気に入りの鯉昇さんが出るというのと、
落語の中でも1、2を争う人気キャラ「居残り佐平次」が聴きたくて行った。
あらかじめネタは明かしてある会。どちらの噺も長講(ながーいお話)。

 ★瀧川鯉和「金明竹」
  どうやら去年入門したばかりの前座さん。
  ネットで調べたら法大卒、新聞社勤務を投げうっての弟子入りだ。
  まだ日が浅いからか、それはそれはおぼつかない落語(笑)
  「話す」というレベルではなく「暗記したものを一生懸命そらんじる」。
  一度とちると、その数語前からやり直すもんだから「噺を聴く」感じではない。
  とにかくとちるし緊張してるし、今まで聴いた中でダントツの初々しさ。
  …これからがんばれ!

 ★橘文左衛門「居残り佐平次」
  のっそり現れたのは大柄、黒々とした髪を後ろになでつけたコワモテ男。
  「ええ~…」と発した声も低くかすれ気味で、とにかく迫力。
  道を歩いてたらあっちの稼業の方だと思われるのでは。
  しかし枕からとにかく面白い。タクシーで運転手がしくじって
  「800円でいい」から「いま出したお金もやっぱりいりません」になり、
  結果、運賃タダの上に(先に出したお釣りの)200円もらったことに。
  「これ、壺算…!?」で大爆笑。

  噺に入ってからも、声を大きく張るわけじゃないんだけど、
  何とも粋な感じなので、いなせな江戸っ子の雰囲気が出てる。
  本で仕入れた後半部分と大きく違い、
 「黒船に日本を引っかきまわされた分、俺はこれから船で
  メリケンに渡って居残りをして、あっちを引っかきまわしてやる」
  という何ともベンチャーでグローバルな佐平次になっていた。
  それにしても佐平次は確かに魅力的だが、たどり着いた先で
  上手に立ち振る舞い、そこに自分の仕事をこしらえてうまくやっちゃうあたり、
  何だかうちの配偶者にキャラがかぶるような(笑)

~仲入り~

 ★瀧川鯉昇「御神酒徳利」
  前も書いたけど、鯉昇さんの第一の売りは「超老け顔」。
  来月還暦を迎えるのでまだギリギリ50代なんだけど、
  パッと見どうみても70を遥かに超えた「おじいちゃん」。
  ギョロリとした目、ちょい出た歯。
  自分が切り盛りする町工場の旋盤の前に立たせると似合いそうだ。
  だから彼はお辞儀をした後、顔をあげてもしばらくは無言のまま、
  その顔をよく見せるように客席をゆっくり見回す。
  それだけで客席からはじわじわと笑いがくる。今回はとくに長め。
  そして開口一番、
  「…お正月から今日までで、電車で4回、席を譲られました」
  どーん、爆笑。
  私でもおそらく譲ってしまうだろう。ためらわず。
  声は穏やかで知的。あくまでも淡々と。なのに枕がいつも面白すぎる。
  噺に入ると一転、アクションや表情が大きめで笑わせる。
  長い噺だけど飽きずに楽しく聴けた。
  6代目三遊亭圓生がこの噺を御前口演したそうだが、なるほど
  幸運続きなたのしいおはなしなので、陛下の前でやるのにいい塩梅かも。

演目



■1月13日(日)
 立川談春 独演会2013 ~デリバリー談春~@練馬文化センター

 翌日も続けて落語。「赤めだか」は愛読書だが、生では
 一度も聴いたことない談春さん、ずっと楽しみだった。
 渋谷から副都心線の急行(地下鉄なのに?)に乗ったら、5分ちょいで
 新宿三丁目、次がすぐ池袋で、20分くらいで練馬に着いちゃってびっくりだ。
 ロビーで母と落ち合う。席は2階。
 ここのキャパは1400以上!これが埋まるってやっぱり談春人気はすごいのだ。
 
 ★立川こはる「家見舞」
  遠目だからはっきりわからないが、やけに小柄なひとが出てきた。
  声も高めで大学…いや、高校生みたいな男子。
  「……ずいぶん若いね!?」とささやきあう。
  しかし声はおおきくよく通り、堂々とした喋りっぷり。テンポもよい。
  とちることもほぼなく、すごく稽古した感じがある。
  前座や二ツ目がやる開口一番でお客がどっと笑うことなんてほぼないのに、
  これだけのお客さんをそこそこ笑わせているのはすごいと思った。
  しばらく聴いているうちにやっと気づいた。
  私「ねえねえ…女性じゃないかなこの人」母「うそ!?」
  男の子みたいなツンツン立ったショートカットだから気づかなかったが、
  この小柄さと声、確かに女性だ。
  終わってから調べてみたらやっぱり女性。談春の総領弟子で、二ツ目。
  面白いかというとまだまだなんだけど、いままで見た開口一番のひとの中で
  断然じょうず、という感じ。談春さんが厳しく鍛えたんだな、と思った。


 ★立川談春「初天神」
  家見舞のはなしから始まって、今日は談志の思い出話ではなく、
  おもに亡くなった圓楽師匠の思い出話。
  落語会まで時間がないのに飛行機が気流の関係で空港に降りられない。
  そこで圓楽師匠は大きな声で「おおい、スチュワーデスさん」と呼び、
  「パラシュート、ある?」
  談志のような繊細な狂気ではなく、野太い狂気をもった人だ、と(笑)
  
  本題の「初天神」、わたしは大好きな噺。
  小三治、一之輔…いろんな人の初天神をYoutubeで聴いた。
  こまっしゃくれて生意気な金坊というガキが可愛いので、
  誰のを聴いてもあまりはずれがない楽しい噺。
  談春さんのは、金坊が登場する瞬間からもう笑わせていてすごい。
  生意気だけどとにかくかわゆい金坊と、イラつく父親の対比がデカくて、
  いちだんとへらず口なのがさらに面白い。
  江戸っ子の乱暴で早口な怒りぶりが絶品だな、談春さん。


~仲入り~ 手ぬぐいなどの談春グッズが飛ぶように売れてる。すごい。


 ★立川談春「芝浜」
  年末にやると何となく決まっている芝浜を、ひねくれ者だからいま演る、と。
  「芝浜といえば談志」らしいのだが、私は音源で志ん朝のを初めて聴き、
  生では昨年末に談笑さんのを聴いただけ。
  「私の芝浜はとにかく長い」と談春さん。確かに長かった(笑)
  だけど、退屈もしなかったし、長いなーとも思わなかった。
  夫婦の描き方がとても丁寧。そして、おかみさんがなんとも可愛い。
  亭主も比較的、冷静なパターンだ。
  雪の降る早朝、戸の隙間から見えた河岸にゆく亭主の後ろ姿に向かって
  手をあわせておがんだこと、風邪っぴきの自分に味噌汁をつくってくれた
  ことがどんなに幸せだったか。それらを独白するおかみさんのいじらしさに
  会場のそこかしこで鼻をすすり、ハンカチを目にあてる光景が。
  ドラマチックでしみじみして、ああ、いい噺を、いい芸を聴かせてもらった、
  という感じ。立川流ってやっぱり独特で、やっぱりすごい。
  志の輔さんの時も思ったけど、落語というよりもはやドラマや舞台に近いよね。
  
  「え?もう9時10分?おれ何分やったの?(袖の弟子たちに向かって)
   1時間半?(袖で弟子が否定したらしい)…え?何だテメエたちは!
   …1時間15分?バカヤロどうでもいいよ、15分も30分もおんなじだろ!」

  なるほど、早口で乱暴な江戸っ子啖呵は、談春さんの地だね(笑)

母も「すごく面白かった」と言っていたし、大満足。
そのまま埼玉の実家へ一緒に帰る。
……そして翌日、大雪となったのであった。
  

演目2


今回の独演会は「デリバリー談春」、略して「デリハル」だと言ってた通り(笑)

「チェンジ自由」と下につけようかと思ってた、とご本人言ってた。