江戸情緒と爆笑派。 | フーテンひぐらし

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永遠の放課後。文化祭前夜のテンションで生きたい。なかなか大人になれない。


またまた落語だヤァヤァヤァー



■11月16日(金) 渋谷に福来たる vol.9 @渋谷 伝承ホール


今回は兼好さんがいない落語会!
…いま気づいたんだけど、先月の志の輔らくご以外では
兼好さんが出ない落語会に行くのは初めてではないか、私!


出演のお三方とも、ぜひ聴いてみたい人気の噺家さんだったので行きました。



広野ゆうなのフーテンひぐらし-vol.9


いつもオジサマでいっぱいの落語ですが、
あれれ、今日はいつもよりなぜか女性が多い。
私の両脇が女性だなんてすごい珍しい!



★オープニングトーク 菊之丞、喬太郎、きつつき
まずは楽屋着(浴衣)で3人がフリートーク。
今回のメインは菊之丞さんなのですが、いつのまにか
トーク上手の喬太郎さんが仕切っていて楽しかった。


★入船亭小辰 「金明竹」
この11月に前座から二ツ目に昇進したばかりの小辰さん。
漢字は違うけど「小竜(こたつ)」といえば「タイガー&ドラゴン」の
岡田准一の名前だったなーと、ふと思い出す。
前座名は「辰じん」だったそうで、二ツ目になってから師匠に
「達人を目指せよ!」と言われ、前進なんだか後退なんだかわからない、と(笑)


骨董やで働く与太郎が、やってきた上方者の男が一気に喋った言葉が
まったくわからず面白がっているところにおかみさんがやってくるが、
おかみさんもまたこの男の口上がまったく分からず…。


これは有名なおはなしで、上方者(つまり関西弁の男ね)
だーーーーーーーーとまくし立てる「道具七品」の言い立てが面白い。
もちろんものすごく早口で言うので聴いてる私たちにも全く分かりゃしません。
この言い立てを誰も理解できないがゆえに男が何度も何度も繰り返し
言わないといけない、というのがこの噺の面白いところ。
長い長い早口言葉を何度も言う、という意味では「寿限無」の
さらなる上級版、ってかんじかもですね。


小辰さんはこの言い立てがメチャクチャ早くて聴いてて気持ちいいです。
ちなみに立川志らくが、上方者じゃなくてガイジンという設定で
この「金明竹」を演っていてそれもすげー面白いです。



★古今亭菊之丞 「町内の若い衆」
ルックス、たたずまい、喋り方すべてが
「ええとこの若旦那」そのままの菊之丞さん。
歌舞伎役者といっても誰もが信じそうな粋な風情です。
そんなだから女性に大人気らしく、この日女性客が多かったのもうなずけます。
私は雲田はるこのマンガ「元禄落語心中」の有楽亭菊比古(現在の八雲の若い頃)
イメージぴったりだなーと思いました。


枕では、初めてライブというものに行ったという話。
それがクレイジーケンバンドだったそうで、いっこだけ曲が分かった、
それはあの「タイガー&ドラゴン」だ…と話を続けたのですが、
ここだけは菊之丞さんが焦るくらいお客さんの反応が薄く。
オジサマたちはクレイジーケンバンドも彼の曲も知らんのかもしれない(笑)


彼が落語を喋り始めると、もう江戸情緒が色濃く漂います。
現代的なギャグやスピード感はなく、正統派の落語。
それにしても女性をやらせると彼の右に出る者はいないかもしれません。
もう、とにかく色っぽい。惚れ惚れしちゃう。
そしてすべての所作の型が決まっていて美しいので、
それをみているだけで楽しいのです。


自宅の建て増しを「大将は働き者だ」と褒められたおかみさん。
「いいえ、町内の若い衆さんが寄ってたかってこしらえてくれたようなものです」
と言う。その相手を立てる物言いに感心した熊さんは自分のかかあも
それが言えるかどうか、アニキに頼んで自宅に行ってもらい、
何か褒めてみてくれと頼む…。
 …この噺、オチが分かりやすくて面白い。




★柳家喬太郎 「あの頃のエース」
Youtubeで観ていて「この人面白いなあー」と思った喬太郎さん。
この日は出囃子が「ウルトラマンエース」だった時点ですでに面白い(笑)


「今年はセブンの生誕45周年なんです。うちの師匠(さん喬)も芸歴45年なんです。
 そう考えると何だか自分がセブンに弟子入りしたみたいでワクワクする。
 ……でも実は餃子の王将も45周年だそうで…。
“さん喬・王将2人会”って並べるとなんか実際にありそうで」
大爆笑。


その後もえんえんとウルトラマンのマニアックな話で、
手にした手ぬぐいまでもがセブンの手ぬぐい。苦笑いする客席に
「今日はこのまま突っ走りますからねーー!落語は菊之丞にまかせた!」と(笑)


…と思ったら、先ほどの菊之丞さんの噺のサゲを言って頭を下げ、
「いやあー今日は面白かったなあ…」と…。どうやら噺が始まった様子。
社長、専務、若い男性部下と女性部下が落語を聴きに行った帰りの飲み屋が
描かれる。おお、これは新作落語なのだなー。


翌朝社長と語らう専務、社長室に飾られたウルトラ7兄弟の人形は
なぜエースがなくてアストラがあるのかと社長に問い詰める。
社長は言葉を濁しつつ、近く出入りの弁当業者と合併の話をするから、
専務も同席するようにと話す…。


宣言どおり、どこまでもウルトラマンネタがからんだ噺で爆笑。
だけど後半はだんだんとしんみり切ない噺になり…これは人情噺かもと。
暴走しつつギャグ全開にもしつつ、サゲでキュンとくるようないい噺に落とした。


いやあ、喬太郎さん、もっとたくさん聞きたい。



~仲入り~



★三遊亭きつつき 「壺算」
私がねおさんに初めて落語に連れていってもらった日、

(つまり初めて兼好さんを観た日でもありますが)
破壊的かつパワフルな「時そば」を演っていて、
「これから要注目かも」と私自身も書いていたきつつきさん。
案の定、ぐいぐい人気を高めていて、来年3月についに真打に昇進するそうで。
真打になったら「萬橘(まんきつ)」という名前になるそうです。


枕で「皆さんにお伝えしなければならない重要なお知らせがあります」
というので、てっきり真打の話を改めて言うのかと思ったら
「わたくしこのたび、やっとクレジットカードをつくることができました!!」

満場の拍手(笑)


そのあと伊勢丹でどのようにしてクレジットカード発行に至ったかを面白おかしく語ってくれました。
そこから「買い物というのは難しいもので…」とつなぎ、自ら
「…ん?今の(つなぎ)無理があったかな」と苦笑い。
その時「もしや“壺算”か…?」と思ったら当たった。
私も「タイガー&ドラゴン」のタッちゃんみたいになってきたよ(笑)


「壺算」はYoutubeで桂枝雀のを聴いていて、それが大好きで。
だから正統派というよりは爆笑派のきつつきさんがやってくれるのはうれしかったなー。


まず1荷入りの壺を買いに行ってまけてもらう。それを返品しにゆき、
そのあと2荷入りの壺を買うのだけど「最初に払ったお金3円と、
返品した1荷入りの下取り価値3円とで合計6円だからこのまま持っていく」
と言い張るのが通常ですが、きつつき版は瀬戸物屋さんが
勝手にそう早とちりしてしまい「どうぞお持ち帰りください」というので、
お客2人は策を弄すまでもなくラッキー♪なパターン。


この噺は混乱していく瀬戸物屋さんの焦りが面白いので、
破壊的なきつつきさんにはハマッていました(笑)




★古今亭菊之丞 「夢金」
トリはふたたび菊之丞さん。爆笑派の喬太郎さん、きつつさんの
空気を引きずらず、サッと払うように一気に江戸情緒へ。


寝言で「百両ほしいよ~」と言ってしまうような強欲な船頭・熊。
その船宿に浪人者と若い娘が来て「船を出してほしい」という。
船頭が皆ではらっているので、熊がその2人を酒代ほしさに船にのせる。
するとその浪人者が思わぬ物騒な儲け話を熊に持ちかける…。


これは「元禄落語心中」で助六が高座にかけた話だ!
助六の話し方のうまさを、菊比古が袖で聴いていて感心する。
「ここは江戸の情景を語りながらも熊のちゃっかりした江戸っ子ぶりを
 表現しなくちゃならねえ…」みたいに。
そこいくと菊之丞さんは熊の江戸弁のぼやきを続けながらも
見事に雪の降る寒い寒い大川の上の景色を描いてくれました。
菊之丞さんは侍ことばも立ち振舞もカッコいいんですね…!


笑うところはあまりないけど、実力ある人じゃないとやれなそうな大ネタでした。




正統派と爆笑派。今回も満足満足でした。



広野ゆうなのフーテンひぐらし-演目