またしても落語です。
またしても兼好さんです。
またしてもひとりでこそこそ行きました。
■10月29日(月) DOURAKUTEI出張寄席
三遊亭兼好・春風亭一之輔二人会【笑】今回は「酒」の噺 @座・高円寺2
高円寺といえばシモキタと並んで「音楽と芝居をやる奴らの街」であり
サブカル臭たっぷりであり、金がない奴ぁ俺んとこへ来い!
俺もないけど心配するな!の雰囲気漂う街(どんなだ)。
野方に住んでいた頃(ダンサー時代)はよく環七をてくてく下って
徒歩で桃太郎寿司とかに行ってたっけな。
なのになにこれ
座・高円寺ってオシャレすぎじゃねえか
伊東豊雄さんという(無知な私は知らんが)
著名な建築家の手によるかなりイカしたデザインの建物だよ
ロビーと階段
今回は前から4列めのどセンターという良席
ステージ、近っっっ
でもこれはこれでちょいと困りもので、ライブや演劇と違って
落語は噺家さんがセンターからほぼ動かないから、
この位置だと目が合いそうで妙に緊張するんだよね。
今回のテーマは「酒」だそうですが、2人の二席ずつが
全部お酒の噺だとお客さんも酔っ払っちゃうだろうということで
お酒の噺はそれぞれ一席ずつ、だそうです。
というわけで今回も年齢層高めで開幕
★春風亭一力 「牛ほめ」
あっ!こないだの北沢タウンホールの兼好さんの会でも観た前座さんだ!
この噺も典型的な前座噺だそうですね。
与太郎がおとっつぁんに言われて、伯父さんの家に行くことに。
「きちんと褒めたらお小遣いがもらえるから」と言われ、
おとっつぁんの言うままに「家の褒め方」「飼ってる牛の褒め方」を
メモして出かけていくが…。
こないだの「道灌」よりも笑いどころが多くて、なんかホッ(笑)
客席もこないだよりどっという笑い声が多かった。
あほだけど天真爛漫で憎めない与太郎がじょうずに出来てました。
そうか、こうして何度も観ていくうちに前座さんがどんどん上手に
なっていくのを感じるのもまた醍醐味なんだなきっと…。
★三遊亭兼好 「野ざらし」
前座の一力さんを褒めた後、先輩にはイヤな奴も多いから大変だろう、
なかには前座さんに命令してさらに上の先輩に出すお茶に何か入れさせ
たりして…という流れから、「その代表格が一之輔さんですけどね」と(笑)
さて「野ざらし」。
独り者の八っつぁんのお隣のご隠居のところに夜半、 それはそれは
いい女が訪ねてくる。それはご隠居が釣りをしていた時に 野ざらし
(骸骨)を見つけたので経をとなえて弔った、そのお礼に、この世のもの
ではない娘が、成仏できましたと来たというのだ。
それを聞いた八っつぁん、おいらもいい女の骨を見つけるぞと
釣り竿抱えて出かけるのだが…。
「あれっ、この噺、わたし兼好さんの動画で聴いたことある!」と
確かに思ったのですが、帰ってから探してみると兼好さんの「野ざらし」は
ググッても出てこない。でもあの芸風確かに…と思ったら、
私が動画で観たのは柳家小三治師匠のでした。
八っつぁんのとまらないおハシャギと都合のいい妄想が面白い。
兼好さんがやるとどこまでも本当に楽しそうだ八っつぁんが(笑)
兼好さんのボケキャラも好きなのですが、最近は野太い声の
周囲のツッコミキャラもかなりお気に入りです。
★春風亭一之輔 「粗忽の釘」
私はお初の一之輔さん。ちょっと大柄でパッと見コワモテ、
そして頭のてっぺんから陽気な声を出す兼好さんとは正反対の
沈黙の間をじゅうぶんに取りつつボソッ、ポツッと毒あるギャグを
放つスタイル。わー、全然正反対で面白い!
(でも「シニカルで毒舌」という点は実は共通してるな)
「あんなに軽い“野ざらし”は初めてだ」とこちらも兼好さんを
チクッといじるところからスタート。
「一力にはやめとけ!って言ったんですけどねぇ」と、
兼好アニさんのお茶に何かを入れたよと客席を笑わすのもお見事。
こういうやり合いが面白いね。
粗忽の釘はとにかく楽しい噺。
引越しをすることになり、粗忽者の亭主が家財道具は俺が運ぶ、と
すべてを背負おうとするが無論持ち上がらない。結局タンスだけ
背負って出て行くが、おかみさんが新居についてそれ以外のすべての
荷物を配置し終わって日が傾いてもまだ来ない。やっと来たのだが
さんざん寄り道したあげくどうやら新居を忘れた模様。
あきれたおかみさん、今度は「ホウキをかける釘を壁に打ってくれ」と
頼むと亭主は…。
一之輔さんの粗忽亭主はドスが効いてて荒くれ者っぽそうなのに
その実ものすごいボケてる、というギャップが楽しい。
このご亭主を陽気にやったらまた全然違うキャラになるんだど
一之輔さんはあくまで低め低め。だから「粗忽なのにものすごい
落ち着きはらってる面倒なやつ」という感じ(笑)
でもどのみちおかみさんには全く頭があがらないのよね。大爆笑でした。
~仲入り~
★春風亭一之輔 「がまの油」
またまた一之輔さん。
この噺は「落語じゃないのか??」と思うようなつくりでした。
なぜならいきなり本式のがまの油の売り口上から入るから。
滔々と口上を語り上げ(難しくて細かくは何言ってるか分からない)、
それでたくさんのがまの油を売った男が調子づいてお酒を飲み、
べろべろに酔っ払ってまた元の場所に戻って商売を再開するが、
とにかく酔ってるから口上がめちゃくちゃになり…。
お祭りなどでハチマキにたすきがけ、刀を持って
「一枚が二枚、二枚が四枚」と紙を切っていく、
切り傷などに効く万能膏(という謳い)「がまの油」売りを
基本として知らないとまず面白くないと思います。
もちろん私も世代的にさすがにリアルで見たことはないけど、
本や漫画で知ってたので「ああこれが正しいがまの油か!」とうれしかった。
そもそもの声の調子もがまの油売りっぽくていいし、
酔っ払って口上を「略っ!」とする一之輔さんが可愛かった。
でも落語っぽくない噺だからか、お客がとまどったのか、
一之輔さん、高座を降りてから苦笑いで小首をかしげながらはけて行ったよ(笑)
★三遊亭兼好 「木乃伊(みいら)取り」
道楽者の若旦那が吉原に行ってもう何日も帰らない。
連れ戻しに行ったはずの番頭も、その後にさらに連れ戻しを
頼んだ出入りの大工の棟梁も、帰らない。
困った大旦那のところに、飯炊き男の清蔵が「おらが連れ戻しに行く」と。
田舎者丸出しの清蔵、吉原に乗り込み若旦那たちのいる座敷に現れたところ
まではよかったが、「分かった。じゃあこれ飲んだら帰ろう」と言われ、
美味い酒をぐいぐい飲み、妓にすり寄られると途端に…。
タイトルどおり、吉原に連れ戻しに行った男たちが揃いも揃って
「ミイラ取りがミイラになる」おはなしです。
兼好さんのズーズー弁キャラ、ここでも健在。
吉原なぞに上がったことのない清蔵が、花魁に手をにぎられただけで
グデグデに照れてしまうのが何ともいえず可愛かった。
でも私がいちばん好きだったのは、とことんお調子者の大工の棟梁だな。
口先とノリと勢いだけで生きてるような商売人をやらすと、
兼好さんはホント生き生きして素晴らしいな(笑)
あー面白かった。
この会のお客さんにはなぜか会社帰りのビジネスマン的な男性が多く、
さらに噺の途中で小さなメモ帳に急いでササッとメモを取る男性も何人かいて、
いったい何をメモってるのだろうとすごく興味深かった。
その噺家さん独特のクスグリ(ギャグ)とか、感想とか、メモってるのかな?
それにしても本当に毎回おもうけど、
若いひとがもっと来たらいいのになあ…。
知らないのはもったいないよ。
【追記】
「いま“がまの油売り”っているんだろうか…」とふと思って
いろいろ検索したところ、口上自体を伝統芸として保存しようという動きはたくさんあるみたいで。
そんな中でもこの石原耕さんという方の口上がすげー面白かった
です。
現代的な笑いに変換していて、お客さんいじりも気配りもお見事。
この方、ほかにバナナの叩き売りとかも得意にしてるみたい。
思いもかけないところで新しいひとを知った(笑)