「この落語家を聴け!」を聴きに。 | フーテンひぐらし

フーテンひぐらし

永遠の放課後。文化祭前夜のテンションで生きたい。なかなか大人になれない。


また落語にいってきましたよ、と ヘ(゚∀゚*)ノ


10月16日(火)北沢タウンホール
「この落語家を聴け!第4回 三遊亭兼好」


現代落語界をリードする落語家の渾身の高座と、その了見にせまる。
インタビューは、「月刊談笑」でもおなじみ広瀬和生。
ふだん語られることにない、落語家の心の裡にスルドク迫っていきます。
一切の打合せなしのスリリングな展開をお楽しみに。(公演情報より)



広野ゆうなのフーテンひぐらし-この落語家を


また兼好さんですよ
もはや追っかけの様相を呈してきましたな


いつ行ってもハズレがなくて明るく楽しいから、
ついつい「また聴きたいな」ってなっちゃうんですよね。
同い年だというのも何か応援したくなる理由のひとつかも(笑)



このイベントは特殊なカタチでして、
ロック雑誌のライターなのに年間1600席を観るという
落語マニア・広瀬氏がセレクトした噺家さんが登場するシリーズで、
広瀬氏とのトークもあるという構成。


最初の落語体験のあと
「さて今は誰を聴けばいいのかな?」と思ったとき
「この落語家を聴け!」という端的なタイトルの文庫本を発見し
読みふけったのですが、その著者が広瀬氏でした。
彼はいまや落語オーガナイザーというか評論家というか、
そっちのほうで有名です。



この本、長年の落語好きの方々からは賛否両論でして
たしかに立川流万歳の匂いが強く偏りもあるようなのですが、
わたしのようなド素人には、「いま勢いのある噺家さん」が
これだけで分かる、というので素直に大変役に立ったと思います。


彼は著作の中で「圓楽党には特筆すべき人がいない」と乱暴に斬ってましたが、
追記のように書かれていたあとがきで「圓楽党に三遊亭兼好という希望の
星が出てきた」
とあり、私はそれを兼好さん初見の後に読んだのですが
おーやはり彼に注目しているのか、と嬉しくなったのを覚えています。



というわけで本多劇場以来の下北沢
平日ラッシュ時の井の頭線って、ハンパないんスね!(涙)


せっかく下北沢に行くので、現在下北沢在住の
ライター・マツ(ただいま長すぎる就活中)に電話して飲みの約束を取り付け
ついでに「面白いから観たらいいと思う」と言ったら、
素直に当日券をゲットしてたので会場で待ち合わせ。


北沢タウンホールはダンサー時代に
いろんな人の舞台や公演を観に来てたので懐かしい。


さて開演



★春風亭一力(前座) 「道灌」
 前座さんが落語の基本を学ぶために最初に覚え演るのに適した噺を
 「前座噺」というそうですが、「寿限無」「饅頭こわい」
 「子ほめ」などについでこの「道灌」も前座噺として有名です。
 学のあるご隠居に聞いた話をそのまま鵜呑みにしてそれを誰かに
 披露したい八っつぁん。だがそのまま上手くいくはずもなく…。
 このパターンは落語に多いですね。 


 一力さんは声がよく通って落ち着いた感じのひとで、前座よりも
 二ツ目ぽい雰囲気があるなあと思っていましたが、素人の私が言うのも
 何ですが、まだ「教えられたものをそのまま素直に演りました」という感じ。
 唯一「れいすかれー(カレーライス)かと思いましたよ」というセリフが
 彼のオリジナリティ(かどうか定かじゃないが)を感じてクスリときた。


 真打ではない人と真打のいちばん分かりやすい違いは「人物の演じ分け」
 だと私は思うのですが、特に前座さんは首を左右に振ってちゃんと声色を
 変えていても、なんというか、間とメリハリが足らなくて2人の人間の
 やりとり感がないのですね。なのでボケツッコミが1人芝居に聞こえちゃう。
 だから笑いづらいのかなーなんて思いました。
 真打の方々の落語になると、不思議と人数がそれだけ舞台上にいるみたいな
 気持ちに自然となるんですよね…。


 一力さんは口跡もきれいだし声も通るし、きちんと演ってるのに
 まだまだ客席が沸くまでにいかないのはやはり落語って「人に伝わる」
 「笑ってもらう」までいくにはとても難しいんだなあ…としみじみ。



★三遊亭兼好(真打) 「錦の袈裟」
 枕(冒頭の世間話)からお客さんをガッとつかんで笑わせるのがさすが。
 舞台に立ったことのある人なら分かるけど、お客って想像以上に身構えてて
 硬いんですよ…泣けるほど。だから「笑える雰囲気にする」って、ものすごい
 パワーが必要なんですが、兼好さんはいつもそのスピードが早くてすごい。


 隣町の連中が吉原へ行って揃いの長襦袢で踊ったところ妓たちに大うけ。
 「あの町のヤツらはこんなことはできねえだろう」と言ったと聞き、
 男たちがそれに対抗しようと「錦のふんどしで踊ったらもっとスゴイぞ」
 と案がまとまる。でも用意した錦の布は1人ぶん足りなくて、あぶれた
 与太郎(落語ではバカの代名詞)は自分のかみさんに相談する…。


 いやあ面白い。
 噺自体が笑える要素たっぷりなんだけど、やっぱり兼好さんの
 「気の強いかみさん&抜けた亭主」はいいなあ。特にかみさんが。
 亭主が吉原で遊ぶのを嫁が許可した上に悪知恵をさずけるって
 ちょっと今の常識では考えられないけど、まあそこは落語ってことで(笑)


 いちばん前の白髪のおじさまなぞ、手をバンバン叩いて笑ってました。
 いまのテレビのお笑いって基本的に若者ターゲット。

 年配向けのエンターテイメントや伝統芸能は、おばさまたちが大多数。

 だから、落語に来てこうしておじいさんやおじさまがゲラゲラ笑ってるのみると、
 なんか無性にホッとしてうれしくなるんだよね最近。




★広瀬氏×兼好さんトークタイム
 このシリーズは3回目までは仲入り(休憩)の後にこのトークタイムが
 あったようですが、それだとラストが落語じゃなくなり、しかも話が
 伸びて時間が遅くなって帰っちゃうお客さんもちらほらいたらしい。
 そのせいか、今回からトークタイムは仲入り前にやることになったみたい。
 
 28歳(すでに妻子持ち)で入門するまで落語に興味もなく、ほとんど
 聴いたこともなかった兼好さん。噺家になろうとした理由は
 「なんか見ててすごい楽そうだったから」。そしてなってみたら
 「ほんとに楽だった」と(笑)苦労したこととか思いつかないそうで。


 噺家さんの中には「落語とは何ぞや」をものすごく深く研究する人も
 いるので、落語評論的なものを書いている広瀬氏とのトークは
 そういう人のほうが中身が濃くなるのでしょう。
 というわけで兼好さんは広瀬氏が何を聞いてものれんに腕押し的な(笑)
 「目指したい特定の先輩もいないし、自分にも他人にもあまり興味がない」と。
 しかも64歳で引退を考えてるって!?不思議すぎる人だよ。
 
 でもね「普通の暮らしじゃ、10分間誰にもさえぎられずに話をできる
 ことなんてまずない。噺家はウケるウケないは別として、誰にもさえ
 ぎられずに何十分も話を皆が聞いてくれる。何てストレスがたまらない
 ことかと(笑)」
という兼好さん。持ちネタは170くらいあると聞いて仰天。


 しかも知らなかったけど新作もやるみたいだし、いろんな師匠のいろんな
 部分を学んでいたりと、「楽だから」と連発するわりにはかなりの努力家と
 お見受けしました。それが苦にならないタチなのか、それとも努力の後を
 ぜったいに人に見せたくないタチなのか。何か後者な気がします。


 広瀬氏も言ってたけど、彼の落語はほんとにいつ聞いても明るく楽しく
 ほがらかで、あの笑顔見てるとこっちも笑っちゃうよ!みたいな感じ。
 だけどその実、結構シニカルでクールなひとなのかも、だからこそ
 ああいうふうに演じることができるのかもしれないな、なんて
 うがった見方もしちゃったよ(笑)



~仲入り~



★三遊亭兼好(真打) 「竹の水仙」
 小田原宿のボロくて儲かってない宿屋。
 いかにも一文無しっぽい白髪の男が泊まる。
 彼は毎日どこにも出かけず三升の酒を飲み魚を食べ長逗留。
 「金持ってるか怪しいから催促してきな」とかみさんに言われ
 宿の亭主が催促したところ「金は無い」と。
 でも私は大工なので竹細工をこしらえてそれを売って金にすると言われ…。


 この噺、謎の泊り客が「宿賃はいま払えない」というところまでは
 先日「渋谷で福来たる」で兼好さんが演った「抜け雀」とまるで同じ。
 なので「あっ…また抜け雀だ…!こないだ演ったのに近い時期にやるなあ」
 と思ってずっと聴いてたら、屏風に描いた雀ではなく、竹製の水仙になった(笑)


 これまた「気の強いかみさん&抜けてる亭主」が面白かった(笑)
 兼好さんの演る女性は確かに気が強いんだけど、どれも
 そこはかとなく色っぽいのがいいのよね。設定は美人じゃないけど
 きっとこの人キレイなんだろうな、と思わせるものがある。


 そして「あたしがガツンと言ってやる」と息巻いて謎の泊り客の部屋に
 行ったはいいけど、あまりにベタな世辞を言われてそのまま引き下がり
 「まっ、(まだ泊めてやっても)いいかな♪っと」とかわゆくポーズを
 決める姿に場内大爆笑でした。


 この噺のサゲ(オチ)はいく通りかあるらしいんだけど、今回のは
 いちばん最初に追い払った乞食坊主をかみさんがも一度連れてきて
 「この人も弘法大師かもしれない」というやつでした。



広野ゆうなのフーテンひぐらし-演目


今回も大満足で終演となりましたが、さて初のナマ落語を体験した
ライター・マツは果たして「すげー面白かったス!」という嬉しい感想。
兼好さんのこともお気に召したようで何よりです。


終演後の酒の席で聞いたんだけど、マツのお父さんは無類の落語好きで
家では毎週のように注文したCDがポストに届き、それを大音響で聴き、
車でも音楽ではなく落語をかけるため、遠くからでもその音が聞えて
マツ一家は大層恥ずかしい、そうだ。


息子がそんな父ちゃんに添っていれば今頃、素人ながら持ちネタが
いくつもある落研出身の噺家志望にでもなってたかもしれないが、
お父さんの爆音攻撃がすごすぎて家族はだーーーれも落語に興味がないのだという(笑)


「北沢ホールの落語会って意外とまだあるらしいから、今度はぜひ
 自分の部屋に呼びがてら、お父さんと落語に行ったらいいじゃん」
というと
「ああ、そうですねー」とうなずいていた。


落語を避けてた息子が「おやじ、過去の名人では誰を聴いたらいい?」
「今度一緒に行かない?」
なんて聞きにきたらお父さんきっとうれしいと思うよ。




さてますます兼好ファンになっていくわたくしですが、
もっと他の人のも聴きにいきたくもある。


というわけで来週はなぜかアッサリ席が取れた(ホントになぜ??)
立川志の輔@赤坂ACTホールですよ!


でもその次の週はまた兼好さんに行くんだけどね(笑)
(春風亭一之輔さんとの二人会です)



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